世界はどこに向かうのか 〜加速するドル離れ〜

店長のひとりごと

レーニンの予言

【一部追記して再掲載】

およそ100年前にロシア革命を指導したレーニンが語ったとされる有名な言葉がある。

「資本主義を破壊する最善の方法は、通貨を堕落させることだ」

ストレートに言えば、インフレを起こすことが資本主義社会を壊す最も有効な策である。ということだろう。

そして、100年の時を経てこの言葉は「ドルの基軸通貨失墜」という形で現代社会に甦ろうとしている。

出典:Pixabay

基軸通貨

そもそも基軸通貨とは何なのかChatGPIさんに聞いてみる。

基軸通貨とは、他の通貨を基準として為替レートを決定するために使用される通貨のことです。基軸通貨は、世界中で流通し、国際間の貿易や資本取引に使用される決済通貨であり、価値の安定したものを要求されます。
現在では米ドルが主な基軸通貨として使用されています。

ChatGPTさんのいうとおり、現在米ドルが主要な基軸通貨として用いられており、それ以外には日本円やユーロ、人民元が国力の高さ、経済力の強さに裏付けられた信用度から基軸通貨として機能している。

ただ、これら通貨の中で米ドルの強さは圧倒的である。

ペトロダラー体制

金(ゴールド)の保有量によって通貨発行量を決めていた「金本位制」は1971年のニクソンショックで終焉し、経済力や政治的な安定性、信用度に由来する「管理為替制度」へと移行する。

名目上は金(ゴールド)や他の金融資産の影響されないとされる「管理為替制度」だが、金本位制と似たような形で各国の通貨価値に大きな影響を与えている天然資源がある。

そしてその天然資源はドルの価値をより強固なものとしていた。
石油である。

石油を意味するpetroleum(ペトロリアム)、そして米ドルを意味するdollar(ダラー)とを合成したpetrodollar(ペトロダラー)という言葉がある。
「オイルマネー」と言い換えることもできる。

「ペトロダラー体制」とは、石油の取引をドルのみで行うことをいう。
明確な決まりがあるわけではないが、先のニクソンショック以降の国際社会において、いくつかの変遷を経て出来上がった商習慣であり、半世紀(50年)に渡り続いている。

石油という後ろ盾と米国経済の強さとが相まって米ドルは国際社会で圧倒的な力を持つ安定資産となり、そして米ドルの通貨発行権を持つ米国はその錬金術を用いて、国際社会のリーダーとして自国の利益を最優先にしつつ現代社会を構築していった。

通貨をめぐる各国の動き

すべてはロシアのSWIFT離脱から始まった

ロシアによるウクライナ侵攻が始まった時点で、こと経済的な側面で2つのワードが印象的だった。
1つはイギリスのジョンソン前首相が言った「市場(株式マーケットも一般の小売でも)からの金(ゴールド)製品の取引制限」。
2つ目はアメリカとEUが推し進めた「SWIFT」からのロシア排除である。

1つ目の金(ゴールド)の取引制限だが、ロシア侵攻から数日間は話題になっていたもののその後この話題はなくなったので、うっかりもののジョンソン前首相が口を滑らせたのであろう。
(私はこのニュースを日本語でも英語でもはっきりと聞いた。ジュエリーを扱う自身の仕事に直結するニュースなのでしっかりと覚えている)

2つ目のSWIFTからのロシア排除だが、まずは「SWIFT」とは何なのかChatGPTさんに聞いてみる。

SWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)は、世界中の銀行間の金融取引を安全かつ効率的に行うためのプロトコル(手順)です。銀行間のデータを効率的に交換するために開発された、高セキュリティなプロトコルです。これにより、銀行間の送金を簡単に、安全に、迅速に行うことができます。

うーん。わかるようなわからないような微妙な説明だな。
要は世界中に銀行が利用している取引システムで、SWIFTが使えなくなると様々な入出金に支障をきたすってことだな。
そしてこのSWIFTでの取引の多くは米ドルを介して決済されているのである。

多くの国はこのSWIFTからの排除によりロシア経済は混乱し、経済成長も大きくマイナスするだろうと考えた。

しかし、そうはならなかった。
中国の後ろ盾もあり、ロシア経済は当初は混乱している感もあったが徐々に持ち直し、半年も経たずして、欧米や日本からの輸入品以外は正常に循環しだした。

そしてこのことは多くの国に米ドルやSWIFTは自国の経済に必須ではないことを気づかせるきっかけにもなってしまった。

量的引締(QT)なのか量的緩和(QE)なのか

米国は昨年(2022年)から米国の中央銀行であるFRB(Federal Reserve System))主導で量的引締(Quantitative Tightening)を行なっている。

具体的にはFRBが所有する国債を償還することで、市場に出回る通貨量を減らしインフレを抑制する。
弊害として国債の利回りが上がり、それに伴い株価も低迷するが加熱した市場を抑え込むには有効であるとされる。

コロナ騒動後、徐々に頭をもたげてきたインフレを抑えるために1年に渡りQTを行なっていたが、それでもインフレが沈静化する兆しがなく、QTの利率拡大や時期の見直しについて検討し始めた矢先、それは起きた。

わずか5日間ほどで米国の銀行3行が破綻した。
(シリコンバレーバンク、シグネチャーバンクの2行では?という意見もあるが、その数日前にシルバーゲートバンクという暗号資産向けの銀行が破綻している)。

そしてこの銀行破綻に伴うさらなる混乱を防ぐため、1年に渡るQTで市場から6000億ドル(約80兆円)回収したうちの4000億ドル(約53兆円)を再度市場にばら撒いく結果となってしまった。

このばら撒きは、実質、量的緩和(Quantitative Easing)として機能し、一時的には銀行の取付騒ぎなどの混乱を防ぐことには寄与したものの、肝心のインフレの抑制については振り出しに戻ってしまった感があり、問題を先送りしたに過ぎないのではといわれている。

出典:Adobe Stock

米ドルを用いない貿易の拡大

先月末(日本時間の3/29)、少しびっくりするニュースが飛び込んできた。
中国とブラジルが、両国間の貿易取引の決済でそれぞれの自国通貨の人民元とレアルを用いることで合意したそうだ。

実はこう言った流れは今回が初めてではない。
ロシア・ウクライナ紛争以降、ロシアと中国はそれぞれ自国の通貨で取引しているし、ロシアとインドも同様にそれぞれの自国通貨で取引をしている。

少し前に「ペトロダラー体制」の話をしたが、サウジアラビアは石油の取引に中国の人民元を用いることを合意した。

こういったBRICsなどの新興国を中心とした米ドル離れを、世界第2位のGDPを誇る中国と南米1位の経済国であるブラジルが表明したことは1つの節目となり、そして今後事態はますます加速していくことが予想される。

歴史を紐解くと「基軸通貨」というものは、私たちが貨幣制度を取り入れて以降、20年〜100年周期で入れ替わっている。
事実、米ドルの前はイギリスのポンドが105年間基軸通貨だったし、その前はオランダのグルデンだった。

そして米ドルが基軸通貨となって100年を迎えようとしている。

どこに向かおうとしているのか

コロナ騒動、ロシア・ウクライナ紛争に端を発する一連の出来事にどこまで関連性があるのかは分からない。
ただ、先に挙げた一見するとバラバラな出来事を線状に繋いでいくと、現時点で断言できることが一つある。

「米ドルの国際的な信用度を低下させ、基軸通貨から排除しようと画策している国・人物が複数いる」

もう少し踏み込んでみる。
米ドルを基軸通貨としている最大の理由は、「通貨の安定性」だ。米ドルの価値が安定しているからこそ、各国が貿易で使用し、対外的な資産確保という観点から米ドルをある程度は蓄えておく必要もある。

別の言い方をすると、基軸通貨たる米ドルは安定してもらわないと各国困ってしまうことになる。
ジンバブエドルのように一夜で価値が変わってしまうような通貨では、信用が求められる基軸通貨として機能しないのだ。

繰り返しになるが、米ドルは自国の経済力の強さ、石油を担保とした底堅さを依代に圧倒的な強さの基軸通貨となり、さらに基軸通貨となったことで各国の思惑からより安定した通貨となり得ていた。

そして、いまその牙城が崩されつつある。

米ドルが前のように確固たる基軸通貨として機能するためには、まずは自国のインフレを抑える必要がある。
インフレが抑えられなければ、より安定した通貨に移行する流れを変えることは難しい。

100年の時を経て、レーニンの言葉が呪縛を解き放ちつつある。

「資本主義を破壊する最善の方法は、通貨を堕落させることだ」

私たちは歴史の転換点を目の当たりにしているのかもしれない。

まさに今起きている出来事

通貨に関連するここ数週間の動きを以下に記載しておく。
インフレやペトロダラー体制に直結する石油関連、また、新たな通貨として注目されている暗号資産やCBDC(Central Bank Digital Currency)関連についても記載しておく。

・OPECプラスによるサプライズな原油の追加減産表明
さらにOPEC加盟国のサウジアラビアは日量50万バレルもの減産を表明

・BRICsが独自通貨(デジタル通貨)作成を表明

・ASEAN諸国が米ドルを中心とした西側主要通貨での取引中止を検討

・米政府、押収した4万ビットコイン(約1560億円相当)を23年度中に売却

・米政府、新たなPayment SystemとなるFed NOWを7月から運用開始とアナウンス。
Fed NowはCBDCも見据えたシステム設計とのこと。

この動きは今後ますます加速していくことが予想される。

(おしまい)

店長のひとりごと
執筆担当者
この記事を書いた人
ぶたねこ店長

現在、個人事業主としてECショップ運営を中心に活動しています。

23年間、会社勤めをしていました。うち22年間は最大手の外資系宝飾ブランドに所属していました。
店頭業務にも携わっていましたが、主にオフィス業務で商品開発、販売促進、マーケティング、取引先との交渉など多岐にわたる業務をこなし、さまざまな知識と経験を得ることができました。

さらに、GIA G.G.(米国宝石鑑定資格)というマニアックな資格を米国で取得しているので、宝石や英語学習に関する見識があります。

10年以上に渡り出張族(日本国内がメイン)として、佐賀県以外の都道府県をすべて訪問し、地方の居酒屋などもよく知っています。

これらの事をブログで発信していきます。
「Curio Trading ブログ」(宝石や百貨店などの特化ブログ)
「店長のひとりごと」(雑記ブログ) という構成になります。
ぜひご一読ください。

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