親父、パソコン買うってよ!!
中学入学から2年ほど過ぎていた。
すでにわたしは家にあるゲーム機やパソコンで遊ぶことはなく、友人の家で遊ぶファミコンに夢中になっていた。
ちなみにドラクエ1、2と友人宅でクリアしたので、友人はさぞ迷惑だったことだろう。
そんな折、わたしの同級生たちの間で新たな変化が起こっていた。
わたしが持っていたPC -6001mkⅡSRや一部で流行ったMSXとは見た目も金額も明らかに異なる、テレビ(ディスプレイ)と本体とキーボードが別々になった、全部セットで30万円以上をするお高いパソコンを所有する猛者が現れたのだ。
第3部 PC-88VA編
PC -8801mkⅡSRが欲しくて夜も眠れない
当時よく遊んでいたM君もそんな猛者の一人だった。
彼の父親は自営業で自宅に併設された作業場で仕事をしていたのだが、なんと新たにパソコン部屋を作り、PC-8801mkⅡSRを導入したのだった。
頻繁にM君宅に遊びに行っていたわたしは、すっかりPC-8801mkⅡSRにハマった。
特にザナドゥやシルフィード、ウィングマンなど、明らかにファミコン(これだって別の友達の家でやりこんでいたのであって自分のものではない)とは別次元グラフィック、ゲーム性に(人の家なのに)時間を忘れて没頭していた。
(後日、M君の母親からうちの母親に連絡があり、あまり遊びに行かないように叱られた記憶がある。)
わたしはPC-8801mkⅡSRに魅了され、なんとか手に入れようと知恵を振り絞ったが、30万円オーバーの金額は中学生に捻出できるものではなかった。
父親、ワープロが必要になる
そんなある日、わたしがコタツで月刊コンプティークを読みながら新作ゲームたちに胸をときめかせていると父親から相談を持ちかけられた。
どうやら仕事でワープロ(文章作成)を使う必要があり、どうせならこの機会に何かパソコンを買ってしまおう、というものだった。
思わぬ申し出にわたしの心は一気に舞い上がった。
父親からの要望は、文章作成ができることと、高い買い物なのでなるべく長く現役で使えることの2つだった(これは今までのSC-3000 とPC-6001mkⅡSRの反省から出された要望だと思う)。
わたしは当時愛読していた、
・コンプティーク
・マイコンBASICマガジン
・ログイン
の3冊をそれこそ穴が開くほど読み、父親の要望である「文章作成ができること」「長く使えること」そしてわたしの野望である「ゲームを心置きなく遊べること」を叶えるべく以下の3機種(3シリーズ)に絞りスポンサーたる父親と協議を重ねていた。
候補となったパソコンたち
・NEC PC88シリーズ
・NEC PC98シリーズ
・SHARP X68000シリーズ
PC88シリーズは8bitパソコンの終焉期ということもあり、あまり長くは使えない予感がした。PC98シリーズはVMやVXが流行り出した頃で文書作成なんかのビジネス用途には問題なさそうだが、定価が高いことと、特に初期はゲームの本数がPC88シリーズに比べ少なく、わたしの野望である満ち足りたゲームライフは送れそうになかった。
そこで目をつけたのが、シャープのX68000だ。
まず、当時のほぼ全てのパソコン雑誌がX68000の特集を組むなど非常に推しているパソコンだった。
次にグラディウスがバンドルされ、しかもそのクオリティはアーケードを彷彿させていた。
ゲームの発売予定カレンダーを見ると、PC88シリーズに次ぐ多さだったのでゲーム不足の心配もない。
父を説得するための文書作成についてはすでにクリアしている。
そして長く使えるという点に関しては、当時は今以上に日進月歩の進化をしていくパソコン市場でシャープから5年はハードの基本使用を変えないことがアナウンスされていたことが後押しとなった。
X68000にほぼ決まりあとは電気屋で実機を見て決めよう、というところまできた頃、季節は春に移り変わろうとしていた。
そう、春の嵐は突然訪れるとは夢にも思わずに・・・
なんでお前が帰ってくるんだ!
わたしには年が5つ離れた兄がいる。
当時彼は京都にある大学に通っていて、長期休暇でもあまり実家には寄り付かなくなっていた。
そんな兄が3月の上旬に突然実家に帰ってきた。理由は特になくヒマだったからだそうだ。
パソコンを買うため電気屋に行く日を間近に控えたある日の夕飯どき、わたしはいつものように父親にX68000の素晴らしさをとうとうと説いていた。
父親はウィスキーを飲みながら「またか」という顔をしつつも適当に相槌を打ち、来週末に時間が取れそうだから電気屋に行こうと言ってくれた。
わたしはX68000を買うであろう自分自身の姿を何も疑いもなく信じていた。
買ったらすぐにグラディウスの腕を周りに披露してやろうと、ゲームセンターに通い1コインで2周はできる腕前になっていた。
しかしここで、まるで予定調和されてるかのごとく自然な流れで兄が口を開いた。
「パソコンってやっぱりNECが安心なんじゃないの。シャープってX1や業務用も出しているみたいだけどシェアは全然NECの方が上なんじゃないの?」
さて、兄弟姉妹のいる方ならわかると思うが、兄弟間のヒエラルキーは存在する。
そしてわたしはこの光景をかつて見たことがある。既視感のある光景をフラッシュバックさせる中、わたしの本能は告げていた「もうX68000は手にはいらない」と。
案の定、父親は「やっぱりオレもNECの方が良いと思ってた」みたいなことを言い出し、わたしにPC88かPC98のどちらかに再考するよう言ってきた。
父親がこう言い出したら意見は変わらないので、その場で足掻くことはしなかった。
PC88シリーズに16bitがあるじゃないか!
いや、正直にいうと新たに発見したわけではなく、当初からその存在には気づいていた。
ただ、それまでの経験(SC-3000とPC-6001mkⅡSR)から少し嫌な予感がして、見て見ぬふりをしていたのだ。
改めて性能を見てみる。
(当時わたしは高校入学する年齢だったことは考慮してほしい)
CPUの性能、FM音源のチャンネル数、スプライトの数(当時のゲーム少年には一番大事)これらを比べてみて、極端には劣っていないように当時のわたしには感じられた。
PC98ではビジネス用途は満たされてもゲームに関しては不安がある(それも杞憂だったが)、PC88のゲーム資産をそのまま活用できてさらに最新の16bitCPUを搭載するPC-88VAを消去法で選び出し、翌週父親と電気屋に向かうことになった。
そう、我が家にPC-88VAがきたのだ。
ちなみにその時にPC88SR用の「ザナドゥ シナリオⅡ」も買ったのだが、「ザナドゥ」がないとプレイできないことを知らず、PC-88VAでゲームをするのはもう少し後になる。
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