百貨店と高級ブランドの収益モデル

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百貨店と高級ブランドの収益モデル

はじめに

先日行われたそごう・西武グループの買収劇。
もともと百貨店ビジネスにどっぷりと浸かっていた身からすれば、興味深くもあり、また時間の流れをひしひしと感じる感慨深いニュースでもありました。

細切れに流れるニュースの中に、LVMHグループの日本社長が買収後の改装計画について何も聞いておらず、上層階や(店内での)立地状況が悪くなるようであれば撤退もあり得る、と発言しました。

日本の百貨店、特に大都市圏の百貨店は中にどこも似たような高級ブランドが入っています。
立地についても同一商圏内に同じブランドが複数出店していることも多いと思います。

今回は高級ブランドの収益モデルについて、守秘義務に引っかからないギリギリのところをお伝えしていきます。

百貨店の3つの収益モデル

まずは百貨店の収益モデルについて考えてみましょう。
百貨店の収益モデルは大別すると3種類あります。
旧来からの収益モデルである「消化仕入れ」「買取仕入れ」、そして10年ほど前から増えてきている「テナント方式」です。

消化仕入れ

消化仕入れとは、百貨店が商品を顧客に販売した時点で、はじめて百貨店がその商品を仕入れたことと見なす取引形態です。

具体的には、百貨店が納入業者から商品を仕入れる際には、納入代金の支払いは行わず、商品が顧客に販売された時点で、その売上高の一定割合を納入業者に支払います。

消化仕入れのメリットは、百貨店が売れ残り商品の在庫リスクを負わないことです。また、納入業者は売れ行きに応じた仕入代金を得ることができるため、リスクを軽減しながら販売することができます。

買取仕入れ

買取仕入れとは、百貨店が商品を納入業者から仕入れる際に、納入代金の全額を支払う取引形態です。
消化仕入れとは異なり、百貨店は商品を仕入れる時点で在庫リスクを負うことになります。

百貨店はすでに商品を買い取っているため、セール品や複数メーカーを詰め合わせた福袋などの対象となるのは、「買取仕入れ」の商品となるのです。

一般的に単価が高額となる高級ブランドでは「消化仕入れ」を採用します。
また「買取仕入れ」の際には、在庫管理責任は百貨店にあることから、各百貨店の特徴を押し出すことが可能ですが、「消化仕入れ」では在庫責任を納入業社(今回の場合は高級ブランド)が負うことから、百貨店ごとの特徴はほとんどなく、各ブランドの売れ筋商品が店頭に並ぶことになります。

テナント方式

ここ10年くらいで増えてきた収益モデルです。
以前はショッピングモールや駅ビル(ルミネ)などで採用されていました。

簡単にいうと家賃収入です。
売り上げに関係なく決まった収益を得られる反面、売上が想定予算を上回った際は収益が目減りしてしまう点と「消化仕入れ」以上に出店ブランドに対してのパワーバランスの発露が難しく、運営に口出しがほとんど出来ない点にあります。

ちなみに具体的には「「そごう・西武グループ」と「大丸松坂屋グループ」がテナント方式を採用しており、後述する幾つかの理由で今後はこの「テナント方方式」が百貨店収益のスタンダードになると言われています。

簡単にまとめると、
百貨店の影響力、および百貨店から見た収益の高さは共に
買取仕入れ > 消化仕入れ > テナント
となるのです。

高級ブランドの収益モデル

次に高級ブランドの視点で収益モデルを考えてみましょう。
前述した通り、「買取仕入れ」を採用することはほとんどなく、「消化仕入れ」か「テナント出店」のどちらかとなります。

で、この「消化仕入れ」を採用した際に、百貨店の取り分とブランドの取り分の割合のことを「コミッション・レート」といいますが、どの程度の割合か想像できますでしょうか?
守秘義務に反する行為となってしまうため、具体的にどのブランドが何%かをお伝えすることはできませんが、海外ブランドであればだいたい20%が百貨店の取り分となっております。

ブランドの強さ(知名度、売上、集客力)によって多少前後してきますが、例えば、100万円売り上げたうちの20万円が百貨店の売り上げとなり、80万円がブランドの売り上げとなります。
(もちろんここから諸経費を差し引いて、売上純利益を出す必要はありますが・・・)

個人差があることは重々承知していますが、私にはこの約20%の百貨店の取り分は非常に少ない数字と感じてしまいます。
率直にいって百貨店は「薄利多売」のビジネスモデルであると・・・

では、「テナント方式」はどうでしょうか?
「テナント方式」については、高級ブランドから見ると百貨店に属さない独立店舗とほぼ同じ運用が可能となります。
余談ですが、ブランドの旗艦店をはじめとした独立店舗も商用スペースをリースしているので、家賃は当然発生します。
(ごく稀に自社ビルなこともありますが・・・)

では、ブランド側から見た場合、「消化仕入れ」と「テナント」どちらが有利になるのでしょうか?
売り上げが好調に推移している際は支出が固定費の家賃のみとなる「テナント方式」が、売り上げが厳しい際は「消化仕入れ」に旨みがあるといえます。

なぜテナント方式がスタンダードになるのか?

今までの事案から、なぜ「テナント方式」が百貨店の収益モデルが今後のスタンダードになるのか推測することができます。

出店ブランドの影響力が拡大

先述した通り、パワーを持ったブランドほどコミッションレート(百貨店の取り分)は低く、過度な干渉を嫌がる傾向があります。
冒頭に記載したそごう・西武内のリノベーション(改装)に際して、LVMH社長が口を挟み退店の可能性を伝えた件なども、極端ではありますが現状の百貨店と高級ブランドの力関係を表しているのではないでしょうか。

そうなると、百貨店という箱の中で各ブランドが各々勝手に派手なパテーションで自ブランドを主張する現状のようなスタイルとなってしまい、百貨店の特色は薄れ、どの百貨店も同じような装いとなってしまいます。

そして、これではテナント方式でも大差ない店構えとなってしまうのです。

以前、JR京都伊勢丹をオープンする際、ブランドの什器は極力使用せず百貨店指定の什器を使用してオープンしたところ客足が伸びず、オープンして1年程度で旧来方式に改装する羽目になったことがあります。

私が知る限り、百貨店のオリジナル什器で成功した事例は伊勢丹新宿店1Fのブライダル特設エリアと梅田阪急2Fのブライダルエリアくらいだと思います。

集客力の低下・購買動向の変化

これは単純に日本の人口が年々減少しているのと直結します。
母数が少なくなれば、来店率に大きな違いがない限り、自ずと分子(顧客数)も少なくなってしまいます。

またコロナに端を発した百貨店来店率の低下、Amazonや楽天、各ブランドが運営するECショップの台頭など、営業努力でカバーできない要因での集客数の減少があり、百貨店のビジネスモデル自体が収縮傾向にあります。

そういった状況では、今後売り上げ規模が下がってしまうことは、「自明の理」であり採算性の観点からも、多くの百貨店がテナント方式に変わっていくことも頷けます。

ただ、そんな中でも従来の「消化仕入れ」を採用し、ある程度自社の特徴を出していきたいと考える百貨店も多いので、今後どのような棲み分けとなっていくかを見届けるのは非常に興味深いところです。

 テナント方式に転換:そごう・西武、大丸松坂屋
従来スタイルを踏襲:三越伊勢丹、高島屋、阪急阪神

百貨店と高級ブランドの相互補完

百貨店視点で見てみると・・・

ここまでの説明で百貨店側の視点に立つと高級ブランドを引き込むことにあまりメリットがないような感じもします。
しかし、高級ブランドを自店に出店させることは大きく2つのメリットをもたらすことになります。

1つは圧倒的な集客力。いわゆるストロー効果です。
高級ブランドをオープンさせることは、顧客の導線を一変させます。
百貨店が特に呼び込みたい富裕層の集客に絶大な効果を示します。

革製品小物のルイ・ヴィトンと宝飾のティファニーは、扱っている商品の価格帯や知名度から集客効果が高く、できるだけ階下に出店してもらい百貨店の来場数を底上げする戦略が取られます。

2つ目は、いわゆる箔付けです。
百貨店の力関係を推し量る際に、どのくらいの高級ブランドを扱っているのかという尺度で比べることが往々にしてあります。

メジャーブランドを出店することは、集客力アップとともに百貨店の格付けにも一役買うことになるのです。

ただ、こうやって出店誘致を行った結果、現状のような各社横並びの店舗形成となってしまっていることは否定できません。

ブランド視点で見てみると・・・

一方、高級ブランドから見た百貨店に出店するメリットは何でしょうか?
1つは集客です。
百貨店というのはほぼ一年を通して何かしらの販促活動を行なっています。そして、中間層以上の老若男女を問わない幅広い顧客層を対象に、アプローチする機会が得られます。

前章で有名高級ブランドが百貨店内に入店することで、集客力の強化になることを記載しましたが、実際に自ブランドのネームバリューだけで十分な集客が図れるブランドはそんなに多くはありません。
多くのブランドはまだまだ自ブランド以外のネームバリューやある程度同一エリアにまとまって展開する必要があるのです。

ただ、百貨店への出店には何の問題もないのか?といわれれば、そうともいえません。
現状の主要ターミナル駅のエリア内に百貨店の乱立している状況では、エリア戦略(要は立地)に偏りが出てしまいます。
特に東京・名古屋・大阪の主要3都市に顕著に現れております。

例えば、銀座・日本橋エリアに3店舗あったとします。
もちろん店構えの大小や顧客層の違いからそれぞれ異なる予算設定がされるのですが、売り上げはその店舗のポテンシャル通りに獲得できるでしょうか?
考えるまでもなく、答えは「NO」となり、ある程度シェアを食い合うことを想定する必要があります。

ブランドはエリア戦略に従い、なるべく集中しないように店舗展開をさせた方がムダが少ないといえます。
ではなぜ同一エリアの特に百貨店旗艦店に同じようなブランドが出店するのでしょうか?

ある程度の売り上げが担保されることが前提となりますが、百貨店への「義理立て」の一面があります。

高級ブランドの出店が百貨店の格付けに影響する、という話は先ほどしました。
同一エリア内に旗艦店が隣接している場合、具体的に例を挙げると、日本橋高島屋と日本橋三越、大丸心斎橋店と大阪高島屋のような店舗から出店依頼があったとするとどちらか一方を選ぶというのはなかなか難しいという状況になってしまいます。

なので高級ブランド側は百貨店からの申し出を受け入れて、義理を立てつつも出店場所の交渉や別エリアの出店計画を有利に交渉を進めるカードとしています。

そして百貨店に出店する3つ目の理由は、日本独自の外商ビジネスの存在です。
複数の百貨店の外商カードホルダーのお客様も少なくはありませんが、昔からのお付き合いや会社の取引の関係などで特定の百貨店でのみ高額品を購入されるお客様も一定数いらっしゃいます。

比較的若い世代の富裕層であれば、外商口座を持っていない方も増えていますが、高級品の購買意欲旺盛な世代はまだまだ外商への依存度が高いといえます。
そして彼らの多くは、ご自身で銀座や新宿エリアのお店をあちらこちらと買い回るというよりも、自宅に外商が持ってきたり、百貨店内の外商サロンで静かにお買い物を楽しむことを好みます。

外商のお客様の購入単価は一般のお客様と比較して極めて高額です。
これから10年後も同じビジネスモデルが確立できているかは分かりませんが、現状は高級ブランドはこの顧客層に頼る必要があるのです。

まとめると

以上のように現時点では百貨店と高級ブランドは、お互いの長所を増強し合いビジネス的には「WIN-WINの関係」を保てている、といえます。
ただ、現状の日本の状況を考えると年々、百貨店は不利な状況へ追い込まれているといえます。

活路を見出すための「テナント方式」への移行となりますが、根本的な解決とはいえず、そして立場的には有利となる高級ブランドもインバウンド頼みの側面が強いため、このまま中国からのお客様が減っていったとすると新たな戦略が必要となるはずです。

(おしまい)

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執筆担当者
この記事を書いた人
ぶたねこ店長

現在、個人事業主としてECショップ運営を中心に活動しています。

23年間、会社勤めをしていました。うち22年間は最大手の外資系宝飾ブランドに所属していました。
店頭業務にも携わっていましたが、主にオフィス業務で商品開発、販売促進、マーケティング、取引先との交渉など多岐にわたる業務をこなし、さまざまな知識と経験を得ることができました。

さらに、GIA G.G.(米国宝石鑑定資格)というマニアックな資格を米国で取得しているので、宝石や英語学習に関する見識があります。

10年以上に渡り出張族(日本国内がメイン)として、佐賀県以外の都道府県をすべて訪問し、地方の居酒屋などもよく知っています。

これらの事をブログで発信していきます。
「Curio Trading ブログ」(宝石や百貨店などの特化ブログ)
「店長のひとりごと」(雑記ブログ) という構成になります。
ぜひご一読ください。

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